狂気を保つ

 20230216

狂気を保つというお話です。

絵を描くために必要な狂気は、たぶん致死量の半分くらいかなあと思います。

絶対に使わないことがわかっている絵具を大量にパレットに出すとか、苦労してやっと80点の出来になった画面を全部ぶち壊すとか、そういう「あーやっちゃった、どうしよう」を経ずに絵が完成することはまずありません。
壊すといっても、はじめから壊すつもりで作ったものを壊しても壊したことにはならないので、完成目指して本気で積み上げたものを壊すわけですから、それには一種の錯乱状態が必要です。

適切な量の狂気を保つ、というのは難しいです。多すぎると死んだり周囲に害を撒き散らしたりするし、少なすぎると何も生み出せなくなります。

制作中の頭の中で、どう「処理する」とか、こう「仕上げる」とか、これを「提示する」とか、「ここのバランスがー」とか、そういう、なにかを「操作しよう」「整えよう」としているときはもう だめだめ です。狂気が枯渇している証拠です。
やむにやまれぬ内側からの漏出が結果として絵になっていた、のでなければ絵ではありません。でもそれはとてつもない難事業です。

もう少し修行を積んだら、正気と狂気の間を自在に行ったり来たりできるようになるのかもしれませんが、いまはただおろおろと悪あがきを続けるしかないようです。

画像は「蛙のかくれんぼ」キャンバスに油彩 2023年