静かな雨

 20230610

日本語はほんとうに美しいものだと初めて身に沁みて感じたのは、寺田寅彦を読んだ20代のことでした。
中でも「声を出さずに読みたい日本語」第一位はこのくだりです。

「梅雨期が来ると一雨ごとに緑の毛氈が濃密になるのが、不注意なものの目にもきわ立って見える。静かな雨が音もなく芝生に落ちて吸い込まれているのを見ていると、ほんとうに天界の甘露を含んだ一滴一滴を、数限りもない若芽が、その葉脈の一つ一つを歓喜に波打たせながら、息もつかずに飲み干しているような気がする。」
(寺田寅彦「芝生」より)

以来、今に至るまで、寺田寅彦随筆集全5巻を何回繰り返し読んだかわかりません。
静かな雨の日にひとりで読む寺田寅彦はなにものにも替えられない贅沢です。

画像は「静かな雨」2023年 キャンバスに油彩