個展「見知らぬ森」2

 20230715

わからないことを「わからない」ときちんと言えることは少なくとも科学の世界の住人であることの最低条件のひとつです。政府やIAEAはその点どうでしょうか。
メルトダウンした燃料に直接触れた水を海に流した前例はないはずですから、トリチウム以外の核種については、どれをどれだけ海に流したらどういう影響が出るかなんて、一定の仮定のもとでの机上の計算しかできないでしょう。それが複雑な太平洋やそこに住む生きものたちの実際の挙動をどれだけ考慮できるのか。実際に流してみなければわかりようがないことはたくさんあるはずです。ですから、少なくともIAEAよりは信用できそうなWHOはそこを評価する基準を持たずにいます(トリチウム以外)。
放出賛成派は「科学に基づいて」といいますし科学に基づくべきなのはそのとおりですが、実際は彼らの多くはただ「IAEAに基づいて」るだけ、そしてIAEAはただ「あのうそつきで有名な東電の出してきたデータに基づいて」るだけ、そして当のIAEAは「わしゃー責任はとらんよ」とはっきり言っています。

習近平は人類に害悪しかもたらさないろくでもない人間だと思いますが、それでも今回の放出に関して賛成派と反対派の両方をざっと比べてみると、中国側の理屈のほうに、賛成派の理屈よりもより大きな理があるようにみえます。

学問的な専門分野について、素人が的外れなことを言うのはよくあることです。少し前にも、ウイルスと細菌の区別もつかない人が「コロナの正体を教えてやる」とありがたい説教をくださることもあったし、中央値と平均値の区別もつかない人が経済を論じていてびっくりすることもあります。
なので、ぼくも原子力の分野でそのような妄言を吐いているのかもしれませんが、それでも、少なくとも今回の「処理水=汚染水」の放出にははっきり反対します。その理由は、放出派の人たちの言動が信用ならないからです。

専門外のことについて、それでもなんらかの態度を決めなければならない場面はいくらでもあります。そのとき、正しい結論を求めるために大学に入り直して一から勉強するのも素敵ですが、それは一回の人生で何度もできることではない。ですから、そいういうときには「誰を信用するか」を何らかの基準に基づいて決めるしかありません。
この基準には、わからないことを「わからない」と言えること、間違っているとわかったら訂正できること、反対意見に対しては(揶揄嘲笑ではなく)情理を尽くして説得なり反論なりできること、などは少なくとも含まれていなければいけません。
「漁業関係者の理解なしにいかなる処分もしない」という約束を平気で破る人間は論外です。方針を変えるというなら「漁業関係者が理解しようがしまいがIAEAの報告に基づいて処分するという方針に変更します」と堂々と言い、その必要性について情理を尽くして我々を説得しようとしてみせなければいけません。
それをしようとせずただ質問をはぐらかして数の力で押し切ろうとするだけの人に「私を信用してください」と言われても、それはちょっと無理な相談です。

個展のご案内です。
なるべく新作を多く出せるようにがんばってます。
吉野剛広個展「見知らぬ森」2
八ヶ岳高原ロッジ(TEL 0267-98-2131)にて
2023年7月18日〜31日(最終日は11:00まで)
会期中無休
長野県南佐久郡南牧村八ヶ岳高原海ノ口