20260310
実は短歌をここ数年ひそかに作りためてきました。けれども、これ以上AIが発達してくるとそれを自分で作ったことを証明できなくなってきます。(もう手遅れかしら。)
まあ、誰に見せる気もなくただ己の楽しみで作ってたのでそれでもいいようなものですが、気が変わっていつか後悔しないとも限らないので、今のうちにここに書き残しておきます。
初期のものは文語体っぽいですがだんだん口語体になっていってます。
推敲途中のものなどもあって未整理で粗っぽいままですが、全部自力で作ってきたものです。よかったらご笑覧ください。
草露を踏み往く獣の血の歌は樹々を巡りて心臓に還る
叫べども地を揺すれども動かざる方舟だけが前世の記憶
一片の楔(くさび)の故に明けぬ夜 岩に焼き付く己の残影
蛇の吐く息の冷たさ 焼け石を己の内に抱えたれども
切れ切れの声が鉱物に変わりゆく地層の狭間で瞬く火花
一万年前から目覚めたがっていた臓器を残して獣は発ちぬ
嵐夜を耐え抜いた最後の一葉 静かな朝におのづから落つ
悠久の大地を踏みて日は落ちて己は何を探していたか
旅人を匿ひてもの言はぬ樹々 雪の分だけ膨れた森で
かく深く眠れる獣なればこそ荒野の神の子守唄を得
凍てつきし岩から岩へ ままならぬ大地に吸われし者たちの声
旅人の放り投げたる言葉たち屋根の上にて雪と溶けゆく
永遠に届かぬことばを磨き続ける地獄はさぞ美しかろう
みなそこに冷たく眠る石ひとつ今宵の月の冴へたればこそ
木枯しよ何をか求め吹き迷ふ峰々は閉ざされし門に似て
銀色に光る鱗の身じろぎて淵の深みに夜は生まるる
天と地の綴じ合わさるる刹那の色も香も忘れし故に我有り
時満ちて墜ち来たる鳥 樹の海を赤黒く染め石に還りぬ
惑星にかつ導かれかつ叛き鉄の大河は真赤に流る
足元の捻れた影を拾い上げ微量の青を混ぜて放てり
少年は後姿を歪ませる 丘に埋づめた背骨も軋む
少年のまだ柔らかき網膜の奥に吸われし真っ直ぐな星
体温を持たぬ手足の薙ぎ払う野にきらきらと鱗の舞い降る
投げられた祈りが土に還るまで降り止まぬ雨 細胞の匂い
火の鳥の通い路なれば崖の上置き忘られた心臓ひとつ
一本の針と幾億の木の葉とを森は抱きて我を手招く
迷ひなき蝶の足取り河原まで辿り終はれば我は樹となる
十六夜は虫の音ばかり残りけり 過去を丸めて野辺に投ぐれば
ありなしの熱源耳元にありて絡まる蔓を引きずり歩く
未だ生を知らぬ世界を見下ろして天を地から引き剥がす神
天界の甘露を知らぬ青き舌 言葉と肉の境より出づ
野の手紙 野の音楽 野の唄なれば ぽつりぽつりと皮膚の内深く
オリオンの五臓六腑が宙を迷う 呼吸の音をそれとは知らず
遠い過去掌(てのひら)だつた土蜘蛛の住み古したる胎の暗がり
幼かれ悲しかれと鳴く虫の声を胡桃の内へ封じ込め
蛇の吐く嘘のひとつと数えらる地より洩れ出づる彼岸花
草の碑に刻まれし文字を野に放ち蛹(さなぎ)は眠る月満つるまで
闇を練る手つき 氷を磨く音 日々を死しては生まるる泉
穴ぐらの記憶の古りし狼よ今宵も苔むす巌を喰らふか
己(おの)が身を焼かるる匂ひを知らざれば蜘蛛は闇夜を吊り弄ぶ
狐火に我が身を晒しいたずらに踏む薄氷その下の闇
青銅の翼は孤鳥には重く身をよじらせて血管を噛む
傷口の底を月光に洗はせて掌(てのひら)の石に物を語りぬ
神々を身ぐるみ剥ぎて転がせど我が身ひとつの旅は終はらず
神々に身ぐるみ剥がされ転がされ我が身ひとつの旅は終はりぬ
亡き者の眼前に躍る星空を蛇の泳ぎて横切り去りぬ
我いまだ人のかたちのままにして古層の森のいちばん底に
今日もまた旅立ちあぐねひりひりと眺むる薪は遅々とぞ燃ゆる
その爪で地球を廻す巨大なる梟(ふくろう)この谷に栖むと云ふ
幾億の時を呼び戻さんとして樹樹はかえつて深く黙せり
風は止みぬ やがて鬼火が照らすだろう再びよぎることなき門を
ふるさとを持たぬ旅人 名を持たぬものばかりを拾うて歩く
しんしんと雪には雪の言葉あり巨樹の内なる街の名前も
立春は魂と地球と太陽と卵が崖を転がり落ちる
旅人が石に打ち明けた言葉を石は永遠に憶えている
丸石を魂と入れ替えてみた 魂は草の上に置いてきた
鳥は去り地球の回る音が止む 大きな鉄の扉が落ちる
振り向けば夜風に滲む血の匂い 視界を埋める無数の球体
稲妻の閃く刹那 足元の地中に透ける巨大な魚影
待つことに決めたが何を待つのかは決めない 落ち葉を踏み締めて行く
背に積もる砂振り落とし歩き出す 一筋の獣道を残して
今宵見る夢が記された鱗が風に乗って運ばれて来る
天と地を取り違えたまま鳥は飛ぶ 水音の鳴る鈴とはぐれて
岸に置き忘られた草笛はやがて血と肉を得て鳥になる
目に見えぬほどに小さな粒だった しっかり握ったはずの光は
墜ちながら星は何かを思い出す それが何かを知る者は無し
水琴と岩の他には何もない惑星に辿り着いた旅鳥
旅人が胡桃の中に閉じ込めた言葉が雨で溢れ出てくる
戯れに引き抜いてみた草の根は北極星と繋がっていた
一片の翅に躓(つまづ)き寝転がる 草草の唄 何もない空
水底(みなそこ)に群れる幾億の単眼ひとつひとつに鉱物の記憶
天蓋の薄さに震え火の山に竦(すく)む子が手に握る貝殻
星たちの匂いが充ちる 冬が来る 樹が鳴る こだまが岩が目醒める
まっすぐに時を巻き取る鬼やんま一番星を追い越して行く
喉元に絡まる夜風 空を踏み曲がりくねった星座を歩く
わけもなく拾うどんぐりふたつみつ指に転がす旅立ちの朝
やがて吹き疲れた風は水底(みなそこ)に冷えた体を丸めて眠る
